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ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。
2009.04.15
パワーアシストスーツ
― 介護や歩行補助に利用されるロボット技術 ―
背中に機器を背負った様子は、「大リーグ養成ギプス」かはたまた「ゴジラ」か。 その正体は「介護する人を力持ちにするパワーアシストスーツ」だ。 かつては産業用に開発されていたロボットだが、医療・福祉分野の活用が注目されている。 そこで誕生したのが介護や歩行の補助に有効とされるパワーアシストスーツだ。高齢者や障がいをもつ人に役立つロボット・メカトロニクス技術について、開発者である神奈川工科大学の山本圭治郎教授にお話をうかがった。
(仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部)
【写真:左】 神奈川工科大学 ロボット・メカトロニクス学科の山本圭治郎教授
人に帰属するロボット
ロボットというと自立して目的を持って動くものと思われていますが、本来は、人間の指図通りに動作して人間を助けるものでなければなりません。 特に福祉や介護の現場でのロボット活用は、人が人を世話する状況を変えないことが重要。「鉄腕アトムができたからあとはお任せ」では困ります。こうしたことから人に帰属するロボットを念頭に18年前からパワーアシストスーツの研究に取り組んでいます。 医療や福祉の現場では新人スタッフが入っても、車いすからベッドへの移乗などの重労働によって、腰を痛め、離職してしまうことが多い。ネックは肉体的な重労働にあり、お世話したいという気持ちは変わっていません。そこで原因のひとつである腰痛を起こさないよう機械で労働を助ける発想が生まれたのです。
安全性を最も重視
産業ロボットの開発で日本は世界一のレベル。ものづくりの現場ではロボットによる無人化、24時間化が進み、ロボットに照明は不要だからと薄暗い中で黙々とものづくりが進んでいます。 移乗介護支援を目的にしたロボットの研究は1970年代からあり、機械技術研究所が開発した「メルコング」というフォークリフトのようなものがありましたが、実用化はされていません。 操作する人と機械の間に距離があると、機械が故障して暴走する危険があります。逆に距離が近いほど安全性が高まる。究極は身に付けること。スーツ形式にしたのはそのためです。 開発では安全性を最も重視しました。「マスター」である使用者が、「スレーブ」である機械を直接身につけるマスター・スレーブ一体システムを採用しています。 そして「患者さんの身体に触れるのは人間であるべき」との考えから、介護される人が機械と直面しないよう、背負う形にしました。被介護者は抱き上げられる際も通常と同じ感覚でいられます。
スムーズな動きの鍵は、空気圧の利用
これまでアシスト力の発生にはモーターが使われていましたが、動きが固く着心地も悪くなります。このスーツの大きな特長は、風船のようにクッション性がある空気の柔らかさを導入したこと。空気の圧縮性で柔らかさを維持しつつ、強力なアシスト力で関節の動きを助けます。
また、力を入れると筋肉が固くなることを利用した新開発の「筋肉硬さセンサ」を導入。シリコンゴムの突起が筋肉をおして、筋力変化を計測するシステムです。通常、関節の動きは、筋肉上皮面に電極を張って計測することが多いのですが、これでは重労働で汗をかくとショートする可能性も。筋肉硬さセンサはシリコン接触なので汗をかいても問題ありません。全身6カ所にセンサが取り付けられ、力を察知するとアコーディオンのようなエアバックに空気が入り、それが肘をまげる、腰を立てる、膝を曲げるといった動きをアシストします。
重量は35kgですが使用者に負担はかかりません。スーツには足底があり、スーツの中に人が入り込むというイメージです。使用者が必要とする力の約半分をアシストするので、例えば10kgの荷物なら感じるのは5kg分の重さです。 用途としては、介護でメインの仕事となる、ベッドや車いすへの移乗と、入浴現場での活用が見込まれています。入浴のサポートは防水化で可能になります。
今の若い人は介護する相手を直接抱くことに抵抗があり、距離をとってしまいがち。それが腰痛の原因のひとつですが、スーツを装着すれば腰が多少引けても腰痛が起きません。人間は重いものを一気に「エイヤッ」と持ち上げようとしますが、お世話される側からみれば、ゆっくりとした動作で行って欲しいもの。このスーツは空気圧を使っているのでそうした動きも得意なのです。
今後、エアバッグに空気を送るポンプのパワーアップができれば、エアバッグの小型化・スリム化が可能になります。同時に、股関節の動きをもっと自由に動くよう改善したいと考えています。現状ではまっすぐしゃがみますが、これではベッドサイドに近づくと膝がぶつかる。スリム化と伸縮比向上が今後の課題です。
またリハビリで片マヒになった方の立ち上がりアシストに使用しようとしています。する計画です。健常な足から訓練を始めてマヒ側にリハビリを進めていくときに、機械のアシストを使いますが、ここでもエアバッグの利点が生きてきます。モーターだと一点中心軸の周りを回転する動きしかできませんが、エアバッグはアコーディオンのようになっているので「いいかげん」に動く。人間の関節は一点ではなく、かなり複雑な蝶番ですから、モーターでは対応しきれないのです。
世界から注目。さまざまな分野に広がる用途
アシストスーツは形状や安全性から世界各国で紹介されています。アメリカの『ワイヤード』という科学雑誌主催の未来科学技術展に招待され、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークの3都市に3年連続で出展しました。ニューヨーク近代美術館(MOMA)の企画展Design and the Elastic Mindでも紹介されました。作業補助へのリクエストも多数あり、オランダのスキポール空港からはバゲージの振り分け作業での要望がありました。欧米では、20kg以上のものを持つ作業は就業規則違反になるため、介護現場でもロボット導入が期待されています。
国内でも、重労働を伴う建設現場や工場での利用、高齢化が進む農業の現場では、肥料や作物のケースの運搬や、果樹の袋掛けの時に使えないかという話もあります。
人間のパワーを体外化するのが、これまでの科学のテーマでしたが、人間をサポートするという考え方がないと人間不要になってしまいます。そうならないために、技術が人を補うという考え方が大事なのです。人工知能でも、例えば我々がだんだん物忘れがひどくなるのに備えて、その前の記憶や頭の中にある内容を覚えていてくれて必要に応じて出してくれるようなものならいい。勝手に何かをやらせてしまうのはとても危険なことです。
パワーアシストの装着方法
【 写真左:装着前のスーツ。肩、腕、腰、足ユニットからなる 】
【 写真右: 腰のユニットを装着 】
【 写真左右:足底に足を入れベルトをしめ、本体と腰や腕などのユニットをつなげる 】
【 写真左右:スーツの支柱から体をはずし、装着終了。装着にかかる時間は、女性ひとりで行うと約3分、慣れている男性なら1分程度。装着方法にはまだ改善の余地があるという 】
パワーアシストスーツ 4つの基本理念
1. 安全なシステム
2. 患者さんとのスキンシップを妨げない
3. 着用者の自然な身体動作を妨げない
4. 違和感のない適切なアシスト力の実現
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