日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

夏の「冒険遊び場たごっこパーク」。川で思い切り遊ぶ

鹿島のユニバーサルデザイン2

前々回、No.87に続き、大手総合建設会社の鹿島のユニバーサルデザインのPart2。同社では建築設計本部の品質技術管理統括グループ環境・性能グループに専門のチームを設け、ユニバーサルデザインに取り組んでいる。今回は同社が携わった最新のユニバーサルデザイン事例を紹介する。
(仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部)

【写真左:壁際の素材の違いによる誘導とサインの発見のための点字鋲との組み合わせ】

触覚文字の導入と案内誘導のシステム化

<事例1>
神奈川工科大学情報学部棟
神奈川県厚木市

神奈川工科大学の新しいシンボルタワーである情報学部棟は、2006年3月に完成した。UD化のための予算を持ち、キャンパス全体をUDの考え方で整備することに積極的に取り組んでいる。車いす利用者や視覚に障がいのある学生や教職員も在籍しており、新校舎の設計条件には法令、条例の遵守は当然のことUD化が設計条件でもあった。また新たに「触覚文字」も導入された。 触覚文字とは、福祉システム工学科の小川教授が開発した触っても読みやすく、見ても美しいフォントである。このフォントは、約10%と言われる視覚障がいのある人の点字識字率の低さを背景に開発された。

設計段階で「点字」と「触覚文字」をサインに導入することが求められた。しかしサインが視覚障がいに対応しても、そのサイン自体を発見できなければ意味がない。そこで大阪の国際障害者交流センターを参考に、館内全体の案内・誘導の仕組みを構築した。 設計を担当した鹿島の中江哲さんは「視覚障がいのある人にとってわかりやすいデザインが、健常者にとってもわかりやすいとは限らないことがあり、トレードオフの関係にあるデザインの決定はむずかしい部分もあった。UDをひとつのルール(システム)と考えた場合、デザインの多様性の確保は今後も考えていくべきテーマであろう」。

建築概要
建築用途:大学
延床面積:16,344平方メートル
階数:地下1階地上13階
設計担当:中江哲、稲生裕子、大宅将之
【 写真 1〜7 】

色、素材、光による誘導や注意喚起

<事例2>
柏瀬眼科医院
栃木県足利市

超高齢化社会の到来に伴い、法律や条令により、高齢者・障がいのある人に対応した都市・建築のバリアフリー化は一定の成果をあげてきた。ところが、ロービジョン(※)の人々へ配慮した整備はほとんど行われていない。そんな中、柏瀬眼科医院は既存医院を移転・新築するに辺り、ロービジョン外来を新設することが決まったという。

計画案では、サインなどにより円滑な移動を行う一般的な方法ではなく、床の色や素材、照明など、空間のデザイン要素である色、素材、光をもちいて誘導や注意喚起を行うことに重きを置いた。これはロービジョンの人々の特徴であるさまざまな光・照明、道路の白線等コントラストの高い事物や床の素材感、音等、晴眼者はほとんど意識しない事物を空間認識や移動などの手がかりとして活用していることに着目した結果だという。開院後のアンケートでは高い評価を得ながらも、いくつか課題もわかった。ロービジョンの人々は今後ますます増加すると言われており、彼らへの配慮が社会全体の重要な課題となってきている。

※ロービジョンの人は眼鏡等で矯正がむずかしく、ものが見にくいために社会生活で不便や困難を訴えている。視機能の低下、白内障、緑内障、糖尿病性網膜症などが高齢化に伴い増加している。

建築概要
敷地面積:1,791.98平方メートル
延床面積:518.31平方メートル
構造:平屋建て(一部2階建)S造
建築設計:真尾博一級建築士事務所
バリフリー化等のコンサルティング:鹿島建設
【 下図 】サインや色彩計画には色の評価シミュレーションを実施。竣工後、デザインの効果を検証した1階平面図

サインや色彩計画には色の評価シミュレーションを実施。竣工後、デザインの効果を検証した1階平面図

<空間づくりの考え方>

●空間分析
・患者さんの利用エリアは限定されている
・測定・検査室を中心としたコンパクトな空間構成である
・スタッフのメモ届きやすいプランである

●ものが見えにくい人に配慮したデザイン
・照明や色彩・床材により、空間の輪郭や歩行空間をわかりやすくする
・色彩や床材により、障害物を発見しやすくする
・サインなどの情報を発見しやすく、読みやすくする 【 写真 8〜14 】

水幕による防火設備-ウォータースクリーン
防災のユニバーサルデザイン

<事例3>
高齢化社会・超高齢化社会への道を辿っていくわが国において災害弱者の防災は急務。車いすや松葉杖で防火扉の段差を乗り越えたり、重い扉をこじ開けるのは至難であろう。また病人・怪我人などの搬送も避難と同じく大切である。災害弱者の避難を確実にまた容易にするこのシステムは防災のユニバーサルデザインである。

通勤時のターミナルなど、極めて多くの人々が集中する施設などで大きな火災が起きた場合、尊い人命を守るため、防火区画・排煙設備・消火設備の整備は急務である。多くの人が集中する部分における確実な防火区画と、一度に多くの人が避難できる安全面をウォータースクリーンは両立させた。
ウォータースクリーンは必ずしも直線状の区画である必要はない。また床面や天井面が水平である必要もない。高さ6メートル以下であれば、どのような部分にも設置が可能。 第6回環境設備デザイン賞の設備器具・システムデザイン部門最優秀賞受賞。

■ 高い安全性

1. 高い遮熱性
水粒子による火災時の高い遮熱効果が特徴。1000度近い高温の反対側で最高でも156度、平均で77度まで温度が低下。

2. 水幕の通過性と透明性
水幕はどこでも通ることができるため、避難用の広い間口が確保できる。車いす利用者の避難や怪我人の搬送が容易になる。また水幕の向うが透けて見えるため火災の状況を確認しながら救援・消火活動が行える。

3. 特定防火設備
この火災安全システムは、性能評価を経て建築基準法上の特定防火設備として国土交通大臣の一般認定を取得た(認定番号EA-0157)。

4. 人に優しい
(防火シャッターのような)挟まれ事故が起きないこと、および避難に支障がないことに関して国土交通大臣の一般認定(認定番号CAT-0299)を取得している。

■ 形態自由性

1. 形態が自由・空間の可能性を広げる
まっすぐで四角いものという防火扉や防火シャッターの常識を覆し空間の可能性を広げる。床や天井に勾配や凹凸がある場合、段差がある場合でも設置できる。また防火シャッターのような支柱が不要。円弧状などカーブした区画も可能。

2. 土木分野へも適用可能
道路トンネル、地下鉄など空間形状の特殊さゆえに、火災時の区画化が難しい分野への適用も期待されている。

導入例:東京ビル TOKIA
東京ビルTOKIAの地下1階のメインエントランス部分の一部に採用。JR地下駅と地下飲食店街を結ぶ動線上であり、極めて多くの人が通行する。防火設備の幅を全て避難のために使えるウォータースクリーンが採用された。 【 写真 15〜18 】

天井スペースなどを余り必要としないこと、水槽とポンプと配管、ノズルで構成された極めてシンプルなシステムであることから、既存の建物や施設の防火改修にも適用可能。 200ミクロンの水粒子による火災時の高い遮熱効果が特徴。1000度近い高温の反対側で最高でも156度、平均で77度まで温度が低下。煙や煤の洗浄効果も大きい。

【写真17:左】天井スペースなどを余り必要としないこと、水槽とポンプと配管、ノズルで構成された極めてシンプルなシステムであることから、既存の建物や施設の防火改修にも適用可能。
【写真18:右】形態が自由・空間の可能性を広げる
まっすぐで四角いものという防火扉や防火シャッターの常識を覆し空間の可能性を広げる。床や天井に勾配や凹凸がある場合、段差がある場合でも設置できる。また防火シャッターのような支柱が不要。円弧状などカーブした区画も可能。

多機能トイレのマニュアル
利用者の動作や使い方、ニーズが理解できる解説

<事例4>
さまざまな身体能力の人が外出する際に問題になるのがトイレだ。多機能トイレの整備は進んでいるが、課題も多い。 バリアフリー新法の施行に伴い、関連するガイドラインが見直され、なかでも多機能トイレの考え方が利用者の観点で見直された。これを受け、現在、鹿島建設では多機能トイレに関するマニュアルを整備している。
このマニュアルは、これまでの仕様書的なものに加えて、設計者に実際の利用者の利用状況・動作や使い方、ニーズなどが理解できるように図解でていねいに解説しているのが特長。 【 図:左右 】

多機能トイレの設計上のポイント・2 多機能トイレの寸法の考え方

浮き出し文字(触覚文字)と点字による講義室の室名サイン
【 1 】浮き出し文字(触覚文字)と点字による講義室の室名サイン
浮き出し文字(触覚文字)と点字によるサインを点字鋲との組み合わせで発見させる仕組み
【 2 】浮き出し文字(触覚文字)と点字によるサインを点字鋲との組み合わせで発見させる仕組み
わかりにくいセンターコアのプランを色と言葉により位置を確認しやすくするサイン計画
【 3 】わかりにくいセンターコアのプランを色と言葉により位置を確認しやすくするサイン計画
衛生陶器と壁やカウンター等周囲とのコントラストを確保し衛生陶器を発見しやすくした色彩計画・カラースキーム
【 4 】衛生陶器と壁やカウンター等周囲とのコントラストを確保し衛生陶器を発見しやすくした色彩計画・カラースキーム
素材を変えることで階段の下側等の危険を喚起させる床のデザインの仕組み
【 5 】素材を変えることで階段の下側等の危険を喚起させる床のデザインの仕組み
廊下の突き当たりに外光を取り入れることで空間をわかりやすくする空間のデザイン
【 6 】廊下の突き当たりに外光を取り入れることで空間をわかりやすくする空間のデザイン
覚障がい者でも発見しやすい扉のデザイン
【 7 】覚障がい者でも発見しやすい扉のデザイン
色彩と素材感で歩行エリアをデザインした測定・検査室
【 8 】色彩と素材感で歩行エリアをデザインした測定・検査室 ・安全歩行エリア 塩ビタイル ・注意が必要なエリア カーペット
歩行の障害となる機器などを発見しやすくするために、床とのコントラストを高めた斜弱訓練室
【 9 】歩行の障害となる機器などを発見しやすくするために、床とのコントラストを高めた斜弱訓練室
色の評価シミュレーションとモックアップによる利用者調査を行い、発見しやすさ、読みやすさを追求したサイン
【 10 】
色の評価シミュレーションとモックアップによる利用者調査を行い、発見しやすさ、読みやすさを追求したサイン
【 11 】色の評価シミュレーションとモックアップによる利用者調査を行い、発見しやすさ、読みやすさを追求したサイン(写真10〜11)
色彩と照明で空間の輪郭をわかりやすくした測定・検査室
【 12 】 色彩と照明で空間の輪郭をわかりやすくした測定・検査室
色彩と照明で発見しやすくした受付
【 13 】 色彩と照明で発見しやすくした受付
 色と素材感による誘導。歩道は柔らかいゴムチップ舗装車路は硬いアスファルト舗装。
【 14 】 色と素材感による誘導。歩道は柔らかいゴムチップ舗装車路は硬いアスファルト舗装。
ウォータースクリーンは「水の幕で出来た防火シャッター」で人にやさしい防火設備。ノズルの配列は直線状である必要はないので円弧状などカーブした防火区画も可能。
【 15 】ウォータースクリーンは「水の幕で出来た防火シャッター」で人にやさしい防火設備。ノズルの配列は直線状である必要はないので円弧状などカーブした防火区画も可能。
水の幕の向こうが見えることによる安心感。また火もとの状況を目視が可能であり、双方向からの移動が容易であるため、火元の状況を確認しながら救援・消火活動が行える。
【 16 】 水の幕の向こうが見えることによる安心感。また火もとの状況を目視が可能であり、双方向からの移動が容易であるため、火元の状況を確認しながら救援・消火活動が行える。

このサイトのおすすめページ

  • まんがゆにばーサルらんど