日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

プレイシングデザイン
遊びのバリエーションが子どもの成長に合わせて広がる"童具"

年代を問わず、誰もが幼年期に遊んだ積み木。和久洋三氏は、長年にわたり遊具を研究し、積み木を基礎にした木製玩具を製作している。独自のモジュールによって、シリーズ化されたWAKUブランドの童具は、子どもの個性や成長に合わせて楽しめるユニバーサルデザインの遊具だといえる。最近では、高齢者のリハビリ用としても注目されている。
和久 洋三(わく ようぞう)
道具館館長、童具開発研究所WAKU所長

WAKU-BLOCKでジャングルタワーをつくる子どもたち

子どもたちが長く遊びつづける遊具の形

 本来、子どもたちに夢を与え、創造力を育むはずの遊具。ところがおもちゃの世界も、子どもたちを取り巻く環境に呼応して、大きく様変わりしている。たとえば、社団法人日本玩具協会で毎月発表している「おもちゃ売上ベスト10」を見てみるとTVゲーム本体、ソフト、関連のカードゲームなどがそのほとんどを占める(2000年11月)。玩具メーカーは、数年前の「ポケモン」ブームのようにメディアミックスで子どもたちの消費を煽っている。
 ユーザーである子どもたちに必要なものは、良質の素材を使い、成長に合わせた遊び方のできる遊具なのではないだろうか。長く使えば、愛着もわき、ものを大切にする心も育まれる。
 和久洋三氏が開発している「童具」は、温もりのある木を使い、触った時のやわらかな感触、さらに大きさに比例した重さをもつ。
 和久氏は、東京芸大在学中から、遊具をテーマにしてきた。当時は高度経済成長期で大量生産・消費の時代。工業デザイナーの役割は、たくさん売れて、すぐに買い替えらえる製品を開発することだった。そんなシステムに疑問をもっていた和久氏は、人の生活に役に立ち、長く使えるものをつくりたいと考えていた。
 そんなとき、昔からあったボール、積み木、折り紙、コマ、ケン玉、ヨーヨーなどが頭に浮かぶ。昔も今も子どもたちが飽きずに遊ぶ遊具は、すべて抽象的な形態をしており、さらに分析していくと、□△○の幾何形態に集約されていることに気がついたという。
 以来、30年にわたり、子どもの発達を考慮して、幾何形態の遊具を秩序化することを課題にしてきた。そのために、保育園で保父として勤務するなど、子どもと遊び、常に観察してきたという。

技術の可能性をアイデアで広げる

  町工場が連なる墨田区で生まれた。父親はサッシ製造業を営み、仕事場を兼ねた住居で職人に囲まれて育った。周辺は中小工場が多く「学校帰りは型抜き工場に寄り道してシールをもらって喜んでいる子ども」だったという。
  絵を描くことや工作も得意だったが、とにかく無類の工場好き。中学・高校時代、桑沢デザイン研究所に入学した後も各地の工場を見て回っては、「プロの技術と魔法に魅せられた」。
  時折感じたのは、優れた技術が型通りの使われ方しかしないことへのもどかしさ。例えば、光る印刷技術を得意とする工場は、看板印刷に特化して仕事を続けていた。その技を刺繍に応用すれば、衣類に使って夜間作業者の安全を助けたり、花模様を施して暗闇で楽しく手話ができる手袋もつくれるのに…。見るだけでなく技術の可能性に想像を巡らせるのが好きだった。十代の頃から思いついたアイデアを社長たちに披露し、実現化した技術も数多い。
  「人を驚かせるのが大好き。デザイナーという職業を知る前はマジシャンになりたいと本気で思っていました」と、はにかんだ表情を浮かべる。

子どもにとって創造力を育む遊びは人生そのもの

 和久氏は自身が開発した木製玩具を「童具」と呼ぶ。「遊びは子どもにとって人生そのもの。遊びながらいろいろなことを学んでいくのです。それを遊ぶためのもの、学ぶためのものというように分けることは間違っている」というのが持論だ。
 積み木を使った、ごっこ遊びや見立ては、子どもの創造力を育てる。本来、車の形をしたおもちゃは必要ないはずだ。たとえば四角い木片を見た子どもは自動車や電車に見立てて遊ぶ。大人はそれを見て、つい自動車のおもちゃを与えてしまう。
 「子どもが積み木に飽きてしまうのは、形や数が少なくて、自分のつくりたいものがつくれないためだ」と和久氏。

こころ豊かな生活を送るためには幼児教育こそが重要

 乳児はお座りできるようになると、大人が積んだ積み木を倒して遊ぶようになる。1歳前後で積み木を積んだり並べたりし、1歳6ヶ月くらいから見立て遊びがはじまる。この頃から直方体、円柱、角柱なども与えはじめるとよい。さらに、4〜5歳くらいになると構成力や観察力が高まり、何日もかけて自分の作品を完成させたり、友達との共同作業ができるようになる。そして、小学生になると、形の科学、数量の秩序、関係性などを理解する。
 また、ダウン症の子どもの遊びにも取り入れられ、形や数量の認知力を高めるのに役立っているばかりでなく、構成力や注意力、集中力も育成される。
 「子どもを集めて造形教室を主宰していますが、大きくなるに従って子どもたちの元気がなくなる」。それは大人たちが「ああしなさい、こうしなさい」といいすぎるからだという。学校でも、興味のない情報を大量に与えられる。「美術大学で教えていたときには、好きなものをつくっていいよ、といっても学生は喜ぶどころか困っていました。課題を出さないと作品ができない。デザイナー志望の学生でさえ、自分の作品を安く、早く、簡単につくろうとする。本来、人間は創造的なものなのに、それができないのは、これまでの教育の弊害」と和久氏は力を込める。現在の教育や社会システムに危機感を抱き、そのためにも幼児教育が重要だという。

遊びながら数の秩序や法則が理解できるモジュール

 童具シリーズの基礎となるWAKU・BLOCKのサイズは、30mmの立方体を基本寸法として、すべての部品は1/4、1/2、1・5倍、2倍、3倍、4倍……の割合になっており、いくつかの部品を積み重ねると必ず同じ高さや長さになる。子どもの発達に応じてさまざまな遊びができるように45mm、60mm基本寸法の中型、大型のものもある。それぞれのサイズは最大公約数が15mm、最小公倍数は180mmとなり、異なる基本寸法の積み木を混ぜて遊んでも高さや長さは一致する。
 さらに、色のチップを組み合わせる「ケルンモザイク」を15mmの半分の7・5mm厚にすることで、複雑な組み合わせも可能だ。基本モジュールを決定するまで和久氏は10数年を費やしたという。「共通のモジュールができれば、世界中の子どもたちが、どこに行っても同じように遊べるし、外国のおもちゃと組み合わせて遊ぶこともできるようになります。そうなることが私の夢なのです」と思いを語る。

幼稚園や保育園、共同保育の場で取り入れられている

 全国の保育園や幼稚園などの集団保育の現場でも、童具が採用されている。最近では、童具を取り入れていることを園の特色として積極にアピールしているところも増えてきている。
 山口県徳山市の共楽保育園もその1つ。園児たちは、遠足で訪れた岩国市の錦帯橋の風景をWAKU・BLOCKを使って再現した。3週間かけて完成した錦帯橋を中心に据えたまちのダイナミックなパノラマに大人たちは目を見張ったという。子どもたちは、大人の力を借りることなく自分たちで設計図を描き、作業の進め方を相談していった。

高齢者などのリハビリやアクティビティにも効果的

 一方、子どもばかりでなく、高齢者のリハビリやアクティビティにもWAKU童具が取り入れられている。新潟県三条市の川瀬神経内科クリニックのデイサービスでは、1996年から、アクティビティの一環に童具を採用している。「ケルンモザイク」などを使い、高齢者がさまざまなパターンをつくっていく。WAKU・BLOCKを高く積む人、立体的なタワーをつくる人、後かたづけのために箱にしまう人など、人それぞれの楽しみ方がある。参加者4〜5人程度のグループにスタッフとボランティアが同人数ついてサポートする。
 高齢者のアクティビティには、体操やゲーム、歌や踊りなど現在さまざまなものが取り入れられているが、子ども用のものをそのまま使ったり、接するときも子ども扱いしないという大原則がある。   
 その点、WAKU・BLOCKやケルンモザイクは大人でも楽しめる。さらに、集団で大きな作品をつくりあげたり、個人的にケルンモザイクでパターンをつくったりとさまざまな利用の仕方があるので、高齢者を中心とした大人の利用も今後、さらに拡大されていくことだろう。

デザイン=社会を考えること

  学校卒業後はデザイン事務所に就職するも、連日の激務で体調を崩し半年後に退社。休養中、桑沢デザイン研究所時代の客員講師から資生堂のパッケージデザイナーとしてスカウトされたが辞退した。自分にとってデザインの仕事は、パッケージやグラフィックなど、ひとつのカテゴリーの中におさめるものではないと思っていたからだ。
  世の中にあるさまざまなモノや技術。それら1つひとつの点を、何かと結んで線に、さらに面へと発展させ、社会の解決策となるデザインがしたい。そして日本の優れた技術を応援したい。そんなことを伝えるとフリーランス契約という形で受け止めてもらえた。馴染みの工場の社長たちの応援にも背中を押され、23歳で独立した。

※以上は、季刊「ユニバーサルデザイン」07号(2001年2月発行)に掲載した記事を再編集したものです。

 

 

 

和久洋三氏
和久洋三氏
ケルンブロック茶色セット
ケルンブロック茶色セット/白木と組み合わせてパターン遊びなどができる。ケルンブロックも30mm基尺なので、WAKU-BLOCKと組み合わせて遊べる
ケルンモザイク基本セット1
ケルンブロックも30mm基尺なので、WAKU-BLOCKと組み合わせて遊べる、写真右:ケルンモザイク基本セット1/シンプルな形を集めた基本セット。模様遊びや見立て遊びができる。30mm着尺
ケルンモザイク基本セット2
ケルンモザイク基本セット2/より複雑なパターンがつくれるセット。基本セット1と組み合わせて、さまざまな模様づくりにチャレンジできる
かずの木・カラー
かずの木・カラー/和久氏がお嬢さんのためにつくったという「かずの木」。遊びながら、数量の具体的なイメージをもてるようになる
楽しい時間を過ごす子どもたち
童具を使ってお母さんといっしょに楽しい時間を過ごす子どもたち
造形教室「コピカ」
和久氏が主宰している造形教室「コピカ」(2・3歳児クラス)
WAKU-BLOCK30とWAKU-BLOCK45・ケルンブロック・ケルンモザイク・おどろ木・かずの木の関係
WAKU-BLOCK30とWAKU-BLOCK45・ケルンブロック・ケルンモザイク・おどろ木・かずの木の関係(画像をクリックすると別ウィンドウで拡大画像が出ます。)
子どもたちがつくった錦帯橋
共楽保育園の子どもたちがつくった錦帯橋
錦帯橋をつくっている子どもたち
錦帯橋をつくっている子どもたち。製作過程でも、いろいろな発見があったという
WAKU-BLOCKを高齢者のアクティビティに利用1
WAKU-BLOCKを高齢者のアクティビティに利用2
大人も楽しめるWAKU-BLOCKを高齢者のアクティビティに利用するケースも増えている

このサイトのおすすめページ

  • まんがゆにばーサルらんど