日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

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誰もが利用しやすい駅前広場をめざして
― 沼津駅北口駅前広場のユニバーサルデザイン ―

ユニバーサルデザイン(UD)が目に見える形になった先進事例として取り上げられることの多い「JR沼津駅北口駅前広場」。国内でいち早くUDの考え方を実験的に導入し、利用者の視点に立ったその整備計画と事業プロセスはいまも高く評価され、多くの自治体から関係者が見学に訪れるという。整備を手がけたUR都市機構(旧・地域振興整備公団)の大村光央さん、森浩光さんに、計画のポイントや事後評価などについてうかがった。
(ユニバーサルデザイン編集部)

新しい沼津の顔

 静岡県は全国でもいち早く、1999年に「ユニバーサルデザイン室」を設置。UDを県政の重要施策のひとつとして位置づけたUD先進県として知られるが、その最初の実践の舞台として選ばれたのがJR沼津駅北口の駅前広場だ。 整備計画がスタートしたのは、UDがまだそれほど一般に認知されていなかった2001年。静岡県東部の拠点都市・沼津の顔として「ユニバーサルデザイン」「沼津らしい広場」「環境共生型の広場」という3つのテーマを基本に、沼津市の新たな交通結節点、交流拠点となるべく「誰もが利用しやすい駅前広場」をつくることをめざした。 広場のレイアウトは、歩行者の安全性を最優先し、歩行者が車道を横断する必要がなく(安全性)、平面移動で(省体力)公共交通機関に乗り換えることができる「ツインロータリー形式」を採用した。一般車・タクシー用ロータリーとバス用ロータリーを分離することで、車両と歩行者の動線が交錯せず、歩行者は安全に移動できる。また、駅から雨にぬれずに乗り換えれるよう、駅入口からタクシー乗降場とトイレをつなぎ、連続的にシェルターを配置。シェルター上にはソーラー発電が取り付けられている。 誘導ブロックについては、視覚障がい者の主導線を明確にしながらも、一般利用者の歩行の妨げにならないよう必要最低限で設置された。また、広場内には、イベントやお祭りの際に利用できる多目的スペースを配置。広場全体のデザイン要素には「沼津垣」「千本松原」「愛鷹山」「茶畑」などのモチーフを取り入れ、沼津らしさを演出している。

経験を次の展開に活かす

 この事業のもうひとつの特徴が住民参加型の事業プロセスだ。整備にあたっては、市内に住む視覚障がい者や車いす使用者、高齢者、主婦などの意見を広く取り入れて随時計画を改善。加えて、「ユニバーサルデザイン会議」を設け、事業者と計画者、設計者、施工者などの事業関係者が頻繁に意見交換し、UDに対する意識の共有化を図った。「2001年に基本的な設計はほぼ固まっていたのですが、2002年に有識者の方々から〝利用者の意見を計画に取り入れてはどうか〟という提案がありました。そこで、市内の視覚障害者協会や盲学校、車いす友の会、老人会、子育てサークルなどの団体にご協力いただいて、計画を再検討しました」と語るのはUR都市機構の森浩光さん。

当事者を交えたワークショップでは、実際に広場模型で配置などを確認するとともに、歩車道段差、シェルターや誘導ブロック、視覚障がい者への情報提供、サイン計画などを現場で検証し、施工中にも設計変更を行った。また、施工中には、広場の状況が把握できない視覚障がい者のために交通誘導者を配置し、ヒューマンサポートを行った。 2002年7月に北口駅前広場が完成したのを受け、翌年には事業関係者と協力者が再度集まり、事後評価が実施された。「タクシー乗り場にも音声案内がほしい」「総合案内はもう少し低い方が見やすい」など個々の設備については改善の余地があることが指摘されたが、住民参加の検討プロセスを含め、全体的な評価は非常に高かったという。「まだ、UDの事例もあまりなかった時代に、市民を巻き込んで関係者が1つひとつの要素を検討し、先進的にさまざまな挑戦をしたという意味では、次につながる非常に価値のある事業だったと思います」と大村光央さん。

現在、沼津市では鉄道高架事業を含む「駅周辺総合整備事業」が進められている。駅前広場で蓄積した多くのノウハウは、次の事業へと段階的にスパイラルアップされ、沼津市全体のまちづくりへと展開されていく予定だ。

歩行者を優先した歩道と段差(その1)
歩行者を優先した歩道と段差(その1)
歩行者を優先して広場内の歩道は段差をなくし、雨の日にも歩きやすいように透水性舗装を採用。タクシー・一般車エリアは、乗り降りしやすく、車道との段差がわかるように段差を0㎝にし、高低差3㎝を斜めにすり付けた
2歩行者を優先した歩道と段差(その2)
歩行者を優先した歩道と段差(その2)
バスエリアは、ノンステップバスへの乗り降りがしやすいように段差15㎝に
 車道舗装の工夫
車道舗装の工夫 タクシー・一般車エリアでは、雨の日にも快適に乗り降りできるように、歩道に接する車道部分を水たまりのできない排水性舗装に
シェルターの車道への張り出し
シェルターの車道への張り出し
バス、タクシー、障害者スペースで乗り降りするときに、雨に濡れないようにシェルターを車道に張り出した
誘導ブロックの工夫(その1)
誘導ブロックの工夫(その1) 視覚に障がいのある人たちに、日常の通行ルートやタクシー乗降場での設置を確認しながら必要最低限で誘導ブロックを配置。交差点の横断歩道には、視覚に障がいのある人が安全に横断できるようにエスコートゾーンを設けた。
誘導ブロックの工夫(その2)
誘導ブロックの工夫(その2) 弱視の人が認識しやすいように両側に黒のサイドブロックを設置。
音声案内・サイン(その1)
音声案内・サイン(その1)
視覚に障がいのある人たちのために、改札口正面とトイレにガイドチャイム、バス乗り場とトイレに音声案内を設置。サインは文字の大きさや書体、表示の高さを現地で確認しながらデザインし、弱視の人にも見やすいように濃い青地に白い文字を基本にした。 総合案内サイン。シェルターの屋根にはソーラー発電システムを取り付けた。
音声案内・サイン(その2)
音声案内・サイン(その2)
バスサイン
音声案内・サイン(その3)
音声案内・サイン(その3)
改札正面の方向誘導サインは視覚に障がいのある人にチャイム音で位置を知らせる。
ベンチは座りやすい座面が選べるように高さを3段階に
ベンチは座りやすい座面が選べるように高さを3段階に
トイレ内にはファミリートイレを男女とも設置
トイレ内にはファミリートイレを男女とも設置
車いす対応電話ボックスと沼津駅北交番
車いす対応電話ボックスと沼津駅北交番
ライトアップされた列柱照明
ライトアップされた列柱照明
施工中は仮設通路に誘導ブロックを設置するとともに、駅を利用する盲学校の生徒や先生へのヒューマンサポートを実施した
施工中は仮設通路に誘導ブロックを設置するとともに、駅を利用する盲学校の生徒や先生へのヒューマンサポートを実施した
施工中の現場でも検証を行った
 当事者を交えた事後検証の様子
当事者を交えた事後検証の様子
サインは文字の大きさや書体などをさまざまな角度から検討した
サインは文字の大きさや書体などをさまざまな角度から検討した

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