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ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

夏の「冒険遊び場たごっこパーク」。川で思い切り遊ぶ

バンブーハウスプロジェクト
― 災害時の仮設住宅のシステムを提案 ―

首都大学東京+青木茂建築工房

昨年8月、「横浜防災フェア2008」の会場、横浜赤レンガ倉庫前に出現したバンブーハウス。竹を構造体として組み、皮膜をかぶせた仮設建築だ。災害時の仮設住宅として、首都大学東京の青木茂教授を中心とした教員、学生有志による提案だ。
(仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部)

 

四川大震災の復興のために役立てたい

 2008年5月12日に起きた中国の四川大震災。その復興支援として実施された「復興グランドデザイン」に応募したことがきっかけだった。地震により住宅が崩壊し、住まいを失った多くの人たち。一刻も早く雨風を逃れて寝食できる場所が必要だ。

仮設住宅を建設するにしても、資材を調達、輸送し、現地で組み立てるまでにも時間がかかる。そこで被災地にある材料を使って、被災者が自ら建設できるような仮設住宅ができればいい。青木さんはそんな思いからバンブーハウスを考えたという。「惜しくも選は逃しましたが、学生からつくってみようという声があり、試作品ができあがりました」と青木さん。

縦4メートル、横6メートル、高さ2.5メートルのバンブーハウスは、首都大学東京の建築都市コースの学生有志e(スモールイー)のメンバーによる手づくりだ。川崎市内の竹林から切り出したモウソウ竹を組み、縄で縛った。「みんなで竹やぶに入っていって、汗だくになりながら竹を切りました」とメンバーのひとり。学生にとってはすべてがはじめての経験だった。約150本の竹を切り、運送会社の協力で大学まで運び、作業に取りかかった。最初の試作第1号の施工期間は12日間。「接合部にさまざまな縄を使ってみたり、結び方を変えたりと試行錯誤しながら製作したので少し時間がかかりました」。

横浜防災フェア2008へ出展したのは、この第1号試作品だ。会場での組み立て作業は2回目とあって工期も短縮できた。さらに9月には改良を加えた第2号もつくった。「回数を重ねるごとに丈夫になり、精度もあがっています。建てる速度もどんどん速くなりました」。

「ボールト屋根と壁の二重構造がデザインのポイントです」と構造計算をした高木次郎准教授。 「今回はプロトタイプということで白いビニルを使っていますが、災害地では雨をしのぐことが優先されるので、入手しやすい青いビニルシートを被せればいいと思います。蓄光塗料を塗った白いテントにする案もありました。災害地は照明がありませんので、テント自体が光ったらいいという発想です」。

デザインのみならずシステムを提案

 4千万人を超える被災者を出し、800万人がテント・避難所暮らしをしたという四川大地震。中国政府による復興計画が立てられたが、今でもテント暮らしの被災者がいるという。

「横浜赤レンガ倉庫の展示では、中国で災害補助の活動しているNPOの方が視察に来てくれました。四川大地震から時間が経過し、都心部は落ち着きつつあるとのことですが、郊外にはまだテント暮らしの人もいるそうです。実際にバンブーハウスを製作する段階までは進んでいませんが、機会があればすぐにでも導入したいとおっしゃっていました」とメンバーのひとり。

「中国では建築現場の足場も竹で組んでいます。バンブーハウスの事例を示せば、竹の扱いに長けた人たちだから、さまざまなアレンジを加えることができるのではないかと期待しています」と青木さん。

「被災者は自宅が崩壊し住むところがない状況で、物資が届くのをまだかまだかと待っています。竹で仮設住宅をつくれるシステムがあれば、ただ待つだけでなく、自分たちである程度復旧できると考えています。遠くから仮設住宅の資材を運ぶと輸送費がかかりますが、バンブーハウスの場合、ビニルシートや接合部に使う縄だけを持っていけば、現地にある竹と簡単な技術でつくることができる。輸送費にかかるお金を被災地で有効に使うことで災害で職を失った人たちの一時的な雇用を確保する狙いもあります」。

ひとつのアイデアを出すことによって「マーケット」と「雇用」が発生する。バンブーハウスのアイデアが誘発剤になればいい。「バンブーハウスは建築そのものより考え方が重要なのです」と青木さんは力をこめる。

さらに建てた後も手を加えて常設の建物にすることも可能だ。「竹をダブルで組んでいるので、間にレンガやコンクリートを詰めて壁をつくることで仮設から常設にもできる」。バンブーハウスは住む人が自分で建てるセルフビルドなので、自分の手で維持管理することも容易になり、継続的に手を加えることができる。完成したマンションを購入しても自分で改良するのはむずかしい。住人自身が建設に携わることで、住まいのメンテナンスやグレードアップしやすい。つまり持続性の高い住宅になる。

震災への備えとして国内からも注目

 かつて竹は、かごやざるなどの日用品として暮らしに身近な存在だった。安価なプラスチック製品が普及し竹の使い道がなくなった。たけのこを採るために全国に植えられたモウソウ竹は繁殖力が旺盛で、放置しておくと森林を駆逐していく。山林に広がった竹は根が浅いため、土砂崩れの原因にもなるという。その竹を建築資材として有効活用するというのも同プロジェクトの狙いのひとつ。自治体からも問い合わせがあるという。 「作業の様子をずっと写真に撮っている人がいて、聞いてみると以前に自分で竹で倉庫をつくろうとしたことがあるそうです。今度は君たちのを参考にしてつくりたいといってくださいました」。 「農業用倉庫や格納庫、パビリオンなど大建築も竹で建てることができます」と青木さん。仮設住宅に限らず、用途はいろいろ考えられる。一軒つくることで、後は現地の方が創意工夫すればいい。現地の職人はもっといいものをつくることができる。

必要なのはリアルスケールのものづくり

 プロジェクトに参加した学生有志グループe(スモールイー)は、2007年に学内の「昼食問題」を解決するためのプロジェクトによって誕生した。大学再編により学生数が増えて、昼食時の食堂に人があふれていた。その解決策として大学キャンパス内の広場に大きなテーブルをつくったのだ。助教の門脇耕三さんは「建築の勉強をしていても、学生時代には実際の建築をつくる機会はありません。リアルスケールでものをつくることでたくさんの発見があります」。

「図面では、線一本でそこにものがあることを表現できますが、線一本が、実際はどのくらい大変なことかはつくった経験がないとわからない。今回のプロジェクトは、学生たちにとって本当に必要なものは何かを考える機会になったと思います」と助教の猪熊純さん。

今回のプロジェクトでは役割分担をしてリーダーを決めた。「テーブルをつくったときの反省を踏まえて、組織として活動するにはどうしたらよいかを考えた」という。つくるだけでなく、バンブーハウスの考え方や試作品を広く知ってもらうために広報活動にも力を入れた。ホームページやブログで活動の様子や成果も公表している。

2009年3月には大分県の旅館で竹を使ったインスタレーション「バンブーパビリオン」が実施されるという。今後の展開が楽しみだ。

現地での施工風景
現地での施工風景
首都大学東京のバンブーハウスプロジェクトのメンバー。学生メンバーは総勢41人
首都大学東京のバンブーハウスプロジェクトのメンバー。学生メンバーは総勢41人
 話し合い風景
話し合い風景
模型制作
模型制作
模型制作
川崎市の山で行った竹の伐採
川崎市の山で行った竹の伐採
川崎市の山で行った竹の伐採
川崎市の山で行った竹の伐採
川崎市の山で行った竹の伐採
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トラックでの輸送
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キャンパス内での施工
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キャンパス内での施工
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