日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

とことん夢中で遊び、生きていることを実感する

泥んこまみれになったり、川に飛び込んだり…。自然の中でたくましく遊ぶ子どもたち。
静岡県富士市の田子浦港周辺で冒険遊び場「たごっこパーク」や長期休みの遊び場づくり「ガキンチョ団」を主催しているNPO法人ゆめ・まち・ねっとの渡部達也さんは遊びを通して、共感する仲間たちと子どもが生き生きと暮らせるまちづくりに取り組んでいる。
(文・写真:渡部達也 NPO法人ゆめ・まち・ねっと代表)

夏の「冒険遊び場たごっこパーク」。川で思い切り遊ぶ

人にやさしいまち、そして人がやさしいまち

 これは、NPO法人ゆめ・まち・ねっとが目指すまちの姿である。「人“に”やさしいまちづくり」は、行政も力を入れている。既存施設のバリアフリー化、新設の公共施設のユニバーサルデザイン(以下UD)化。しかし、心の問題抜きでUDを考えることはできない。 娘がUD化された最寄り駅の調査に出かけた。そこで見たものは、様々なUDの工夫とともに、点字ブロック上の自転車の列やそこで商売をする大人の姿だった。いくら「人“に”やさしいまちづくり」、つまり、ハードとしてのUDを進めても、人々のハート(心)が伴わなければ、誰もが快適に暮らせるまちにはならない。一人ひとりが優しくなったら、本当に誰もが心豊かに暮らせるまちになるのになぁ…そんな思いを込めて「人“に”やさしいまち そして 人“が”やさしいまち」という理念を掲げている。

失われた子どもたちの遊び

 「ゆめ・まち・ねっと」の活動の柱は、子どもたちが生き生きと遊べる環境づくりである。子どもたちにとって遊びとは、生きていることを実感する場である。その実感を通して子どもたちは多くのことを学び、豊かに成長する。しかし、子どもたちが自由に遊べる環境はすっかり失われてしまった。識者がよく指摘するのは、遊びのサンマ(三間)、すなわち空間、仲間、時間の減少である。 子どもたちが遊べる自然は年々減少。さらに、格好の遊び場だった廃材置き場や溜め池などは、管理責任が問われる風潮の中で立ち入り禁止に。頻発する誘拐事件などにより道草すら許されなくなった。de

遊ぶ仲間も減少した。かつてどこでも見られたあそこに行けば誰かが遊んでいるという場はなくなった。もちろん少子化の問題は大きい。しかし、そればかりではない。公園ですら、子どもだけでいると危険な場所になってしまった。さらに、みんなが習い事に行くので、約束をしないと遊べる友だちを確保できなくなった。 そのほか様々な社会的要因により、遊びの時間は圧倒的に少なくなった。いや、電子ゲームやDVD、メールを遊びだとするならば、遊びの時間は現代の子どもが最も多いであろう。問題なのは、本来遊びとは呼べないそうした時間が増え、子どもが子どもらしくいられる、異年齢で群れて自由に遊ぶという時間が失われてしまったことである。

遊びが育む心のユニバーサルデザイン

 子どもたちの遊びが貧弱化したことによる弊害があれこれと指摘されている。その一つに遊びが育んでいた思いやりや優しさの欠如があるのではないだろうか。 30数年前の自身の子ども時代を振り返ると、当時は自然体でやっていたが、それが今でいう心のUDに繋がっていたのかなと思うことがたくさんある。年上の子どもが集まると、三角ベース(野球遊び)をよくやった。中にはお守りを頼まれた弟を連れてくる友だちがいた。さて、その弟をどうしたか。「お前は下手くそだから、そこで座って見てろ」ということはせず、仲間には受け入れてやる。ただし、その子が三振してもアウトカウントに入れない。エラーしても、それに乗じて進塁はしない。そんなルールを作っていた。公式野球にはもちろんない、遊びの世界ならではのルールで、弟が入ったチームも対等な勝負を楽しめた。そして、そんなルールを知らない弟も年上のお兄ちゃんたちと一緒に三角ベースをやっているわくわく感を楽しめたのである。

子どもたちが集まって相撲をやれば、年上の子どもは自らにハンディを課していた。まともに相撲をして格下の子に連戦連勝してもおもしろくない。だから、ちょっとでも押されれば土俵の外に出されてしまうような所で仕切り、勝負を受けていた。誰もが勝てる可能性が生まれることで相撲遊びはいつも盛り上がった。

こうしたその日その遊び場に来た子どもみんなが遊びを楽しめるようにという知恵や工夫は随所に見られた。そしてそれは、自然と子どもたちの間で受け継がれていた。ガキ大将が「いいか、お前らも大きくなったら、小さい子にやさしくしてやるんだぞ。そのためにこんなルールがあるから覚えておけよ」などと講義をしていたわけではない。段々と年齢を重ねるにしたがい年上の子どもの知恵や工夫の意図がわかるようになる。そうした遊び方に憧憬や尊敬の念に似たような感情を持ち、年上になったら自分もそんな振る舞いをしたいなと思ったのである。

押し付けられるユニバーサルデザイン

 今、大人たちは、子どもに心のUDを身に付けさせようとUDフェアでの車いす体験や学校に障害のある人を招いての講話を実施している。それらが無駄だとは言わないが、イベント的な教育は、様々な生活体験があってこそ生きるのである。子どもたちは理屈を教えなくても、感じる心を持っている。その感性を発揮できる場さえ提供してあげれば、子どもたちはぐんぐん成長する。そして、かつては日常の遊びこそがその生活体験の場であった。 仲良く遊ぶ知恵を出し合うこともあれば、けんかをすることもあった。怪我をして近所のおばさんに手当てをしてもらうこともあれば、悪さが見つかっておじさんに怒られることもあった。暑い日には涼を求めて川や森で遊び、雨が降れば神社の軒下で遊んだ。 毎日、毎日の遊びだからこそ、いろんなことを体験し、いろんなことを学んだ。そしていろんな子どもとふれあい、いろんな大人と出会い、思いやりや優しさも自然に育まれたのである。

子どもたちに大切な心の居場所

 「ゆめ・まち・ねっと」は、子どもたちを健全育成しよう、清く正しく美しい子どもを育てようとする活動はしてない。子どもは危なく、汚く、うるさい遊びにこそ夢中になり、生きていることを実感する。そんなハチャメチャな遊びを受容していくのが「ゆめ・まち・ねっと」流である。 だから、学校や家庭や地域に居場所がない子どもたちも遊びに来る。家庭環境的に子ども会などの地域活動に参加していない子もいる。教師や同級生との関係から学校に足が向かない子もいる。そんな子どもたちも遊びの中ではみんないい笑顔を見せ、小さな子の良き遊び相手になり、片づけを手伝ってくれたりもする。 自由な遊びの中では、安心して自分をさらけ出すことができるのである。彼らが見せる優しさは、「弱者を救済するため」のものではなく、自分も楽しむためのものである。「小さい子に優しくしなさいよ」と親や教師に言われたから形としてやっているわけではなく、心の内から自然と沸いてくる感情に従って振舞っているだけである。 そんな子どもたちと日々付き合っていると、子どもたちには心の居場所が本当に大切なんだと実感する。いや、子どもだけではない。心の居場所があれば人は誰でも優しくなれる。

ゆめ・まち・ねっと活動応援Tシャツ 1枚で2度おいしい!?

 子どもたちの居場所づくりにつながって、障害のある人たちの就労支援にもつながる世界でここだけのゆめ・まち・ねっと活動応援Tシャツ。 イラストデザインは、人気ドラマ『ウォーターボーイズ』の演技指導でも知られる水の導化師・不破央さん。 制作は、障害のある人たちの就労支援としてプリント工房に取り組んでいる「NPO法人障害者活動支援げんきむら」さん。 活動応援募金2,000円以上プラス送料で差し上げています。 募金のうち、制作費分は障害のある人たちの就労支援につながり、それを差し引いた分は子どもたちの居場所づくりにつながります。

NPO法人「ゆめ・まち・ねっと」への募金や活動支援はこちら http://www.h6.dion.ne.jp/~playpark/member&support/index.htm

マスタープラン
「たっちゃん&みっき〜」こと渡部達也さんと美樹さん(写真後列左、中央)は、冒険遊び場「たごっこパーク」や長期休みの「ガキンチョ団」など、子どものための多彩な活動を展開。大人に向けては子育ての悩み相談や講演活動を行っているほか盲導犬候補犬を育てるパピーウォーカーもしている。
お父さん、お母さんもボランティアで参加する「冒険遊び場たごっこパーク」
お父さん、お母さんもボランティアで参加する「冒険遊び場たごっこパーク」
落ち葉など自然の素材があれば、遊具もゲームもいらない。
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 降りしきる雨の下、創作舞踊「たごっこソーラン」で盛り上がる
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ここでは遊ばないのも自由
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 川に飛び込んで遊ぶ中高生たち
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 近所のおじいちゃんが鮎の塩焼きを提供。子どもたちも作業に参加。
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小さな子も自分で道具を使う
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 雨のぬかるみも遊び場に
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近所のおじいちゃんたちも活動に共感し支えている
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 昔懐かしいベーゴマも人気の遊び
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MRTの地下鉄のサイン
遊び道具になるリヤカーや青いシート、竹などどれもいただきもの。
オリジナル活動支援Tシャツ
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