日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

みずほ銀行のユニバーサルデザイン
ハートフルプロジェクト

視覚障がいのある人も使いやすいATMの導入など、大手銀行がユニバーサルデザイン(UD)化をめざす動きが高まっている。中でも建物からサービスにいたる多面的なUD化「ハートフルプロジェクト」を推進しているみずほ銀行は、その取り組みが評価され2006年に東京都の「福祉のまちづくり功労者に対する 知事感謝状」を受賞。2007年には店頭サービスと金融商品の充実度を調べた「銀行リテール力調査」(日経新聞、日経リサーチ共同)で総合1位を獲得し た。
(仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部)

【写真左:みずほ銀行六本木支店】
2007年3月に六本木支店・横浜駅前支店、大船支店の3店舗をハートフルプロジェクトモデル店舗に指定。さまざまな取り組みを試行し、他店舗の快適化に反映させる

ハートフルプロジェクトのモデル店舗となった六本木支店

顧客の高齢化が背景

 段差のない入口、多機能トイレ、聴覚に障がいのある人が意思疎通するための筆談ボード…。
 みずほ銀行の「ハートフルプロジェクト」は、「年齢、性別、障がいの有無などに関わらず、誰にでも利用しやすい銀行」をめざす取り組みだ。「ハード」「ソフト」「ハート」から銀行のUD化を進める。
 2005年みずほフィナンシャルグループはCSR(企業の社会的責任)の推進を事業戦略の重点課題として位置付けた。高齢化が進み、障がいのある人たちの 社会経済活動への参加が求められるなどの社会状況の変化を背景に、みずほ銀行ではCSR活動の一環としてハートフルプロジェクトを開始。実際に同行でも顧 客の高齢化が進んでいるという。
 プロジェクトの立ち上げは2005年11月。全行におけるバリアフリー化の推進を決定し、実態把握調査を経て、基本的な取り組みや効果検証などの計画を作成。翌年8月、全営業店に方針を通達し、本格的スタートをきった。

店舗や設備のバリアをなくすハード整備

 プロジェクトを取りまとめるのは経営企画部。経営企画部・企画第二チームの三輪薫さんは、全体プランをつくるために「行内の多くの関係部署や、UDの専門 家を擁するグループ会社のみずほ総合研究所と連携し、基本計画を策定しました。また、基本計画に基づく個別課題の実施にあたっては、4名の外部有識者で構 成するハートフルアドバイザーの方々から、銀行よがりの施策にならないようアドバイスをいただきながら進めています」と話す。
 ハートフルアドバイザーはトリノパラリンピック2006年金メダリストの大日方邦子さん、ともにユニバーサルデザイン国際会議で「第1回ロン・メイス 21世紀デザイン賞」受賞経歴をもつ古瀬敏さん(静岡文化芸術大学デザイン学部教授)と川内美彦さん(一級建築士)、まちづくりのUDなどを専門とする髙 橋儀平さん(東洋大学ライフデザイン学部教授)の4名。各専門分野からマニュアルや店舗づくりの指導をするほか、半年に1度4名が一堂に介す「ハートフル アドバイザー会議」で銀行担当者らと意見交換を行う。
 「過去に、部分的なバリアフリーの取り組みはありました。ただハード・ソフト・ハート面におよぶ広範な取り組みは初めて」と三輪さんが話すように、多面的かつ横断的な点がプロジェクトの特長。専門領域を担う各部署の動きに横串を通すのも経営企画部の役目だ。
 銀行業務は担当部署が細分化されており、例えば設備面でいえば、同じフロアにあるATMと受付システムでも部署がわかれ、ソフトに関しても顧客向け書類 とパンフレット類で担当部署は異なる。そこで、各部署の担当者が集まる「ワーキンググループ会議」を月1度実施し、現状把握と情報の共有化を図っている。
 専門家や担当者間の会議でのみ方針を決めず、みずほ総合研究所の協力のもと、高齢者や障害者の意見を直接聴く機会を設けたり、顧客とじかに接するスタッ フの声を吸い上げる仕組みも整えた。「本部の施策を一方的に押し付けるのではなく営業店の提案を受け入れ、施策立案に役立てています」と三輪さん。

ソフトは情報提供を充実。ハートで接遇向上をめざす

 ソフト面での取り組みでは、主に顧客対応や書類、インターネットコンテンツの質向上をめざす。営業店窓口に筆談などの準備があることを伝える「耳マーク 表示板」、「筆談用ホワイトボード」や「コミュニケーションボード」の設置をはじめ、インターネットバンキングでもわかりやすい説明画面にして操作性を上 げるとともに、一部機能では視覚障がい者の利用にも配慮した。パンフレットは大きな文字と図版を取り入れ、読みやすさと理解しやすさから改良を加えるほ か、顧客記入用の書類や伝票類も「見やすい・分かりやすい・書きやすい」ものへの改訂を進めている。
 ハート面では、呼び名の通り、銀行で働く人すべてに対してUDや思いやりの心(ハート)をレベルアップさせるための取り組みを展開している。高齢者や障 がいのある人、妊婦、外国人などへの対応をまとめたマニュアルを、パートスタッフを含めたすべての行員に配布するほか、研修用ビデオも作成した。
 ビデオには、ハートフルアドバイザー自身も出演・監修し、高齢者への伝票記入の説明方法など具体的な対応を解説したものだが、「店舗状況が異なるので、 ただ見て終わりではなく、実際に自分たちの店舗ならどう対応できるかをディスカッションしてもらいます」とお客さまサービス部・CS企画チームの西山信子 さん。
 さらなるサービス強化に向け、全営業店のロビーコンシェルジュ(ロビー案内を含めた総合案内係)とロビースタッフ(ロビー案内係)計2300名を対象に 車いす操作法など実技を含めた1日集合研修を実施。加えてロビーコンシェルジュには「サービス介助士」(NPO法人日本ケアフィットサービス協会認定)の 2級資格取得を支援する。約250名のロビーコンシェルジュのうち3分の2が同資格を取得した。

金融初、都知事感謝状を受賞

 2006年12月にはプロジェクトの取り組みが、東京都から評価され「福祉のまちづくり功労者に対する知事感謝状」を金融機関として初めて受賞。また、2007年には全国121行を対象に、サービスと金融商品の充実度を比較した「銀行リテール力調査」(日本経済新聞社、日経リサーチによる共同調査)で総 合1位を獲得した。
 効果検証も随時実施する。店頭に設置した「お客さまの声カード」で意見を集めるほか、「支店のバリアフリー対応」などの項目を加えたCS調査を年2回行 う。「近頃では施策に対するお褒めの言葉も増えています」と三輪さんは笑顔を見せる。各店の工夫は地域性を考慮し、高齢者層などへの配慮だけでなく、キッ ズスペースの設置などお子さま連れの家族を対象に、快適なロビー環境の提供を目指している店舗もあるという。より利用者を増やす銀行になるために、UDの 視点は欠かせなくなっている。

1階ロビー
1階ロビー
入口の自動ドア化
ドアの有効幅を広げると同時に、自動ドア化を実施
注意喚起の警告ブロック
輝度比、および店舗の内装との調和を考慮した点字びょうを選択
通路幅や間仕切り
接客カウンターの間仕切りは車いす利用客も利用できるように余裕のある間隔に
広くとった貸金庫閲覧ブース
車いす利用客も快適に使えるようブースを大きくし、車いすで回転できるスペースを確保した。入口扉はコンパクトに納まる引き戸を採用
見やすく工夫したサイン
文字を縁取ることで色のコントラストを強め、視認性を高めている
耳マーク表示板とホワイトボード
店頭には筆談などの準備があることを伝える耳マーク表示板とホワイトボードを設置
音声案内付きATMの整備
すべてのATMに音声案内用のハンドセットを整備するとともに、車いす利用客に配慮した拡幅ブースを設置
1階ロビーの多機能トイレ
オストメイト対応のパウチ尿瓶洗浄水栓、多目的ベッド、手元手洗い器、手すりなどを設置
駐車場からのアクセス
駐車場から店舗入口までの動線は段差をなくし、扉は自動ドア化している

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