日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

筆談ホステスに学ぶコミュニケーション術

今回は斉藤里恵さんの著書『筆談ホステス』(光文社)と、出版を記念して銀座のスワンカフェで開催された握手会の様子をご紹介します。
(仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部)

【写真左:著書を手に笑顔の斉藤里恵さん】

著書を手に笑顔の斉藤里恵さん

人それぞれの特性を活かして

 盲目のピアニスト、辻井伸行さんがクライバーン国際ピアノコンクールで優勝したことが話題になっています。辻井さんは幼少の頃から、母親が口ずさんだ歌をおもちゃのピアノで弾くという類まれな才能を持っていて、その才能に気付いた両親がピアノを習わせたことがピアニストになったきっかけだったそうです。 辻井さんの演奏は聴衆に感動や喜びを与えています。

障害を持っていてもいなくても、人にはそれぞれ特性があり、その個性をお互いに理解して認め合い、支えあって生きていくことが共生社会なのではないでしょうか。

銀座のクラブでホステスをしている斉藤さんは、1歳の頃にかかった病気がもとで、聴覚に障害があります。高い付加価値でお客様に楽しい時間を提供する銀座のクラブ。その超一流のおもてなしの要はホステスの接客術にあるといえます。斉藤さんは来店するお客様との会話を筆談でするそうです。

青森市出身の斉藤さんは聾学校から普通中学校へ、さらに普通高校へ進学しました。高校性といえば、多感な年頃。コミュニケーションがとりにくいこともあり、周囲とのトラブルが原因で、斉藤さんは次第に学校へも行かず、両親にも反抗するようになります。しかし、ある事件がきっかけになり、斉藤さんのことを理解してくれる周囲の人の支えで、斉藤さんは次第に自分の生き方を考えるようになりました。著書では、そんな斉藤さんの幼少時代から現在までの思いや周囲の人との関係をつづっています。

5月31日の握手会には、斉藤さんを応援するお店のお客様をはじめ、本を読んで共感した人や聴覚に障害を持つ人など、たくさんの人が訪れました。中には斉藤さんの出身地である青森から花束を抱えて駆け付けた人も。 髪をキリリとアップにした着物姿の斎藤さん。著書の『筆談ホステス』を手にする姿は、少女のように可憐です。

握手会の前に開かれた記者会見にも報道陣が押し寄せました。記者からの質問に対する答えは、ひとつひとつきれいな文字で、ていねいにホワイトボードに書かれていきます。

お店での斉藤さんは、ペンとメモパッドをいつも持っていて、お客様との会話に使います。銀座のクラブですから、もちろん筆記用具も吟味しています。

本の中でも、お客様との「会話」がいくつか紹介されていますが、なるほどと感心することばかりでした。 たとえば、悩みを抱えて「辛い」と思っているお客様に対し、斉藤さんが「辛いは幸せになる途中ですよ」と答えるところは、音ではなく、文字だからこその発想です。

斉藤さんの筆談術には、コミュニケーションのヒントがいっぱい!

  まずは、相手の様子からその日のコンディションや状況を察すること。次に会話に出てくる言葉の奥にある相手の気持ちを理解すること。それらを踏まえたウイットに富んだ言葉を紡ぎだすこと。 25歳という若さながら、相手の気持ちを察し、心に響く会話ができる斉藤さん。生来の感受性の豊かさとともに、たゆまぬ努力があるのです。

マンガから映画や小説の名台詞まで、会話の中には、斎藤さんの引出しにしまってある極上の言葉が出てきます。

一流のホステスさんというのは、お客様ひとり1人の仕事や家族構成、趣味や性格などを知り尽くし、その人に合わせた会話ができる人だそう。上手に聞き役にまわり、ウイットに富む答えを返すことも大切です。そのための勉強も欠かせません。毎日、新聞を読み、経済や政治の動きを把握するのはあたり前だとか。

自分の気持ちがうまく伝えられない人、コミュニケーションで悩んでいる人も多いことでしょう。 最近は、人の話を聴かず自分のことばかり話す人が増えていて、そんな人同士の会話はいつも一方通行。これではいくら話をしても、お互いを理解したり、共感することはできません。人は誰でも、自分のことを理解して、共感してくれる人を求めています。

いろいろなことに悩んだ思春期の斉藤さんにも、気持ちを理解して支えてくれる大人たちがいました。そして今、斉藤さんはたくさんの人たちの心の支えになっています。 将来は障害のある人もない人も一緒に働けるエステサロンやカフェを開きたいというのが、斉藤さんの夢だそうです。

握手会の会場となったスワンカフェは、障害のある人もない人も、共に働き、共に生きていく社会の実現を実現させるためにできたカフェです。銀座の他、赤坂などにもお店があります。 スワンカフェは、ヤマト福祉財団の故・小倉理事長とヤマトホールディングス株式会社が設立した株式会社のスワンが運営しています。握手会の後には、株式会社スワンの海津 歩社長のミニ講演会も開催されました。

 『筆談ホステス』(光文社)
『筆談ホステス』(光文社)
記者の質問にはホワイトボードで答える
記者の質問にはホワイトボードで答える
チャームポイントは「表現が豊かなこと」
チャームポイントは「表現が豊かなこと」
たくさんの報道陣に囲まれる斉藤さん
たくさんの報道陣に囲まれる斉藤さん
会場となったスワンカフェ
会場となったスワンカフェ

このサイトのおすすめページ

  • まんがゆにばーサルらんど