日本から世界まで。さまざまなUD活動を紹介 ユニバーサルデザインの今

ユニバーサルデザインの取り組み事例を3つに分類してご紹介。
街づくり、モノづくり、ヒトづくり。いずれも連関していますが、興味のある分野から、ぜひご覧ください。

遊びはユニバーサル

一口に遊びといっても、様々である。「おもちゃや遊具を使って遊ぶことが遊び」という一般的な概念だけにはとどまらない。少子高齢化が進み、多世代が生活している現在では遊びはもはやこどもたちだけのものではなく、ライフスタイルの多様化とともに、あらゆる世代にカタチを変えて多様な遊びが存在している。遊びの種類も遊びの概念もどんどん広がっている。食事をするように、服を着替えるのと同じように、人々の生活のベーシックな部分になりつつあるのではないか。もともと遊びは、教育的成果や意義、目的を持った生産性のある行動ではない。一人でも、大勢でも、またツールの有無に限らずとも、楽しむことができる。そういった意味で遊びは、世代、障害、国境、性差を超えており、自然とユニバーサルに楽しむことのできる行為になっている。その中でも特に世代間の遊びについて触れたい。
(小杉ももこ/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員)
千葉大学自然科学研究科環境デザイン研究室

【写真左:米国小学校の放課後。障害の有無にかかわらず遊びに興じる子どもたち】
(写真クレジット:イレーン・オストロフ)

米国小学校の放課後。障害の有無にかかわらず遊びに興じる子どもたち

ライフスタイルの多様性に対応した社会

 ライフスタイルが多様化し、個人の欲求レベルも高くなり、欲求の種類も様々に広がっている。ユーザーたちのこだわりや要求に合わせた製品やデザイン、店舗、サービスなどがあふれている。ユーザーはファッションや食べ物、住まいのデザインから老人ホーム、立ち寄る店など、嗜好や用途に沿ったものを選ぶことができるようになった。最近では旅の予約の仕方も変わってきており、代理店を通すことなく自分でプランを計画し、インターネットを使って直接旅の予約をすることが容易となり、個人でも気軽に旅行にでかけることができるようになった。そのような人々の個性や世代を網羅し、その人それぞれに合った楽しみ方を選択することができる。異なったニーズへのフォローが可能な世の中になってきている。

一般的な世代間交流と遊び

  そのような社会の中で近年「世代間交流」という言葉を耳にする。世代間交流とは核家族化などで世代のつながりが希薄になってきた社会の中でもう一度世代のつながりを結ぼうというものである。交流のやり方についてはいくつか種類があるが、ツールとして遊びが利用されることがある。昔ながらの伝承遊びを通じて、教えながら、話を聞きながら、違う世代とのふれあいを楽しむことができるというものであり、遊びを通じて世代の垣根を飛び越えることができる。最近では、市や区の福祉施設や老人ホームでも世代間交流と呼ばれるプログラムが様々に実施されており、地域に住むこどもたちと囲碁をしたり、折り紙を教えたり、伝承遊びをしたりといった交流がなされている。  
 また、先駆的な例としては、おもちゃ美術館館長である「多田千尋」氏がすすめるおもちゃを通じた世代間交流がある。東京の中野にある4階建ての「おもちゃ美術館」ではおもちゃの常設展示やおもちゃライブラリーの設置がされており、大人からこどもまで楽しんで手作りのおもちゃをつくるおもちゃ教室が開催されている。  
 伝統のおもちゃや、世界中の珍しいおもちゃなどが展示され、お気に入りのおもちゃを見つけて自由に遊ぶことが出来る。実際訪れた日にも二人のこどもを連れたおかあさんがプレイルームでこどもと一緒に遊ぶ姿や、小学生たちがおもちゃコンサルタントと呼ばれるボランティアの人々と楽しそうに遊ぶ様子を見ることができた。また「おもちゃ図書館」を高齢者施設に設置し、こどもと高齢者がおもちゃを通じて遊ぶうちに自然と会話が生まれ、笑顔が生まれる。  
 こういったコミュニケーションへの試みは様々な方面から注目されている。ここではこどもは高齢者から遊びを教わり、高齢者はこどもから元気をもらうことができる。また2008年には現在ある中野の「おもちゃ美術館」が移転し、新しく廃校になった四谷の小学校を利用した「東京おもちゃ美術館」の設立がきまっている。

様々な世代にとっての遊びという概念

  こどもにとって遊びとは主におもちゃを使ったものであり、遊びのベーシックな部分ではある。世代の違う人たちを遊びの場でつなぐことができる重要なコミュニケーションツールになり得る。しかし若い世代、中年世代の関わりを考えた時、成長していくにつれて、遊びの種類もとらえ方も変わってくる。例えば私たちの年代がちょっと遊ぼうなどという話になれば、大体の場合は食事にいったり、一緒にどこかへでかけたりする。例えば、一人でipodを聞きながら気軽に好きな音楽を聞きながら外出する。恋人と旅行にいったり、どこかに散歩に出かける。地元の夏祭りに参加したり、スポーツをするなどそういった行為は義務や強制されるものではなく、自由な場であり、かつ楽しみを伴ったものである。普段の生活の中でもちょっとしたことでリフレッシュすることができたり、幸せな気分になれたり、楽しくて仕方がなくなったりする。そういった趣味を楽しむ、時間を楽しむ、場を楽しむことは大人世代にとっては遊びだと考えられる。
 遊びを大きくとらえたとき、気の合う仲間とお酒を楽しんだりするのも私たちにとっては遊びであり、人をつなぐ空間をつくってくれるコミュニケーションツールの一つになる。  中目黒にある「あぶりどりバリ鳥」は立ち飲みの居酒屋という形態をとっている。駅から近く、店の中はカウンターのみで、その気軽さからちょっと寄りたい時にふらっと立ち寄ることができ、短い時間を使って一人からでも食事とお酒、店の雰囲気を味わうことができる。また、カウンターを囲むように立って飲むというスタイルのため、お店の人や隣の人との距離も近いので、お客それぞれの会話も耳に入りやすく、何となく一体感が生まれてくる。実際友人たちとの飲み会の際にも気がついたら周りの見知らぬ人々と年齢を超えて意気投合していたなどということがあった。このような立ち飲みスタイルならではの楽しみ方から生まれるコミュニケーションがある。おもちゃを使わなくなった世代にとって、遊びのツールの一つの例になり得る。

楽しいを共有することの意味

  広い意味で制限や制約を伴わない「遊び」。前に述べたように遊びは様々な枠、バリアを飛び越えることができる。参加する遊び手たちにとって、その空間は楽しみの場、ふれあいの場になる。そこで人々は知らず知らずのうちにわかりあい、思いやりを共有しあえる。そのような場では価値観が様々で、関係が希薄になっていると言われる現在においても世代と世代、人と人をつなぐことができる。遊びにはユニバーサルなふれあいが存在している。

中野区「おもちゃ美術館3階企画展示コーナー」では年2回の企画展と手づくりおもちゃの教室が開かれている
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